怪談「海岸沿いの奇妙な村」作:闇島牛鬼郎

兄は仕事を自動車整備にするぐらい車が好きでよくドライブに行く
海沿いを走って街や村を見つけるとそこの名産の魚介類を食べるっていうドライブが特に好きで、その日も兄は根室方面の海沿いを走っていた

晴れた空の元、キラキラと輝く青い海を眺めながら走るドライブは格別だ

しばらく走っていると海岸近くに小さな村を見つけた
この道は何度か走っているが、あんな村は見たことがないな見落としていたのかと思い、興味を引かれたので、その村へと車を走らせた
道路は途中で終わっており、その村までは目の前に見える急な階段を下りていかなければたどり着けないようだ

随分とアクセスの悪いところにある村だな?
車も通れないのでは漁業をしていても卸まで持っていけないのではないか?
それとも他に道があるのかな?
なんて考えながらその村へ続く階段を下った
かなり長く、年期の入った階段で所々崩れていた
なんとか下までたどり着くと村をみて兄は驚いた

村の建物はほとんどが木造で壁は隙間だらけのあばら家だった

廃村だったのか・・・ かつてここに人が住んでいた名残が残る村
兄は興味本位でその廃村の中を探索してみる
すると、ある一つのあばら家の中から何か強烈な臭いがすることに気付いた

何だろう?と思い古びた扉を開けると

あばら家の中にあったのは、大量の魚の死骸だった
それが腐り強烈な腐敗臭を放っていたのだ
いや、よく見ると魚だけではない
原形をとどめていないが獣の肉片と骨まであった

ヤバイ、熊のねぐらだったのか!と思い逃げようと思った時
背後からバシャバシャと海から何かが上がってくる音がした

兄はあわててあばら家の横の物陰に隠れた
あばら家の壁の隙間から覗くと、海から上がって来たのは熊ではなく人だった
海中で漁をしている人が上がってきたのかと思ったが、あばら家の中の有様から何かおかしい人なのではないかと考え、声をかけようとはしなかった

人影はどうも男性のようだ、ただ姿がぼんやり見えるだけでハッキリとどういう人なのかわからない
兄は少し移動して男を近くで見てみることにした
少しずつ音をたてないように男に近づくと、男の姿がハッキリと見えた
男の身体には、大量の鱗が生えていた
腕や足、顔にも鱗が生えており顔が認識できない

男の姿に恐怖した兄は急いで逃げようと男に気づかれないように歩きだした
すると、また海からバシャバシャと何かが上がってくる
今度は一人や二人ではない十数人の物音だ

その音を聞いた兄はいてもたってもいられず、走って逃げ出した
逃げる足音に気付いたのか、男が奇声をあげる

脇目も降らず階段を駆け上がり車に乗り急発進させる
バックミラーを見ると十数人の男達がこちらへ走ってくるのが見える

全員身体に鱗が生えていた

車を飛ばし、村を後にした兄は少し走った先の街へいき交番へと向かった
警官に事の顛末を話したが、そんな所に村はないという

兄は釈然としなかったがそれ以上食って掛かると一緒にいきましょうなんて言われるのも怖かったのでしぶしぶと帰った
それから数ヵ月後、たまたま村の近くの道を走った時に、遠くから村の様子を見てみたが、村は消えていた
ただ、あばら家の木片が散乱していて最初から何もなかったようには思えなかったそうだ

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